なぜ5人に聞くのか

「私たちはこの業界ではプロだ。商品についてはよくわかっている。もちろん顧客志向のものづくりは大切だが、顧客に振り回されてはならない。だから今さらお客様の言うことを聞いたって売れるようになるわけではない」

 

よくこのようなことをおっしゃる方がいます。それに対して私は3つの回答をします。


1.「5人聞き取り」はお客様の言うことをすべて聞き、鵜呑みにするわけではない

 

「お客様5人に質問をします」というと、「お客様にどんな商品が欲しいか聞く」と思われる方がいらっしゃいます。しかし、そのような質問はしません。お客様は「今あるもの」について話すことは出来ても、「何が欲しいか=今ないもの」については話すことも想像することもできないからです。

 

コンピューターが発明された頃、IBM創業者のトーマス・J・ワトソンは「コンピューターは世界で5台ぐらいしか必要とされないだろう」と言いました。また、携帯電話の出始めの頃も「いたるところに公衆電話があるのに、そんなもの必要ない」と言われました。記憶に新しいところでは、iPhoneの発売が開始された頃も「ワンセグも赤外線通信もキャリアメールもない(当時)、こんなものは売れない」と言われました。

 

このように、人は「今ないもの」を正しく評価することは不可能です。だから、「どんなものが欲しいですか」と「今ないもの」を尋ねる質問は無意味です。

 

しかし「お客決め」では、「買った理由」そして「買うのをためらった理由」を聞きます。これはそのお客様が経験した、れっきとした「事実」です。だからこそ正確に話すことができます。

 

だからといって、その5人の回答がすべて「正解」とは限りません。その中から共通項を見出したり、あるいは企業側が見落としていた点を発見したり、という作業が必要です。そのため、聞いたことをそのまま商品やチラシに反映させればよい、というわけではありません。


2.あなたが「プロ」だからこそ売れない

 

これにはあなたは「?」と思ったかもしれません。

 

ではあなたに質問です。

あなたは家にテレビがありますか?では、そのテレビの性能が他社のテレビとどこがどのように違うか説明できますか?

あなたは自動車を所有していますか?では、その自動車のエンジンが他の自動車のエンジンとどこがどのように説明できますか?

 

テレビも自動車も、うまく答えられない人がほとんどではないでしょうか。

乱暴に言えば、あなたは(そして私も)テレビや自動車について、そのメーカーの人と比べたら、はるかに素人です。

せいぜい「えーっと、ウチのテレビは4Kとかいうのできれいらしいよ」「この車種は燃費がいいって聞いたから」くらいのものではないでしょうか。

これは、あなたの会社の商品を買うお客様の気持ちとまったく同じです。

 

おそらくテレビのメーカーも自動車のメーカーも、技術者は最先端の研究を行い、少しでも他社よりよいものを作ろうと努力しています。

でもその中身をきちんと消化し、100%理解している人は、あなたを含めてほとんどいません。

 

あなたのお客様も、あなたの商品について「素人」なのです。

あなたの「知識」や「こだわり」はもちろん大事なのですが、それを「素人」のお客様が正しく認識し、評価しているかは別なのです。

 

あなたがテレビや自動車を買った理由は「明確な、他の商品よりいいと言える根拠」があったからでしょうか?

違いますよね。「なんとなく広告が印象に残った」とか「知り合いにすすめられて買った」とか、おそらくそんなところだと思います。

 

あなたは「プロ」で、あなたの商品のことを知りすぎています。だからこそ、「素人」のお客様と見るべきポイントが離れていってしまうのです。

 

「いや、いいものを作れば評価されるはずだ」「ウチのお客様は目が肥えている、素人なんかじゃない。相手もプロだ」という人もいるかもしれません。

 

しかしあなたの会社の製品について、どちらがより良く知っているでしょうか?もちろん買い手側よりも圧倒的にあなたの方が知識がありますよね。だからこそ、「あなたにとっては当たり前のこと」が、実はプロの相手でも知らなかった、ということがあり得るのです。

 

そこで、5人のお客様に買った理由などを聞いてみるのです。それにより、改めて「プロでない、普通の人」が「どのような理由で選んだのか」を知ることが必要なのです。


3.自分の強みや良さは自分ではわからない

 

私は会社員時代、こんなことを言われたことがあります。

「幸本さんって、パワポとかの資料を作るのが上手ですよね」

私は謙遜でもなんでもなく、特にそんな意識はなかったので「そうかな、別に普通だけどな。特別上手ってわけではないのにな」と思っていました。

ですが、複数の人にそう言われるので「自分ではそうは思ってないけど、他の人から言われるってことはそうなのかも」と思うようになりました。

 

このように、自分の強みや得意分野というのは自分ではなかなか気付かないものです。

自分にとっては「当たり前のこと」や「意識すらしなかったもの」が、他の人にとっては「スゴい」ことだったりするのです。

 

あなたの会社もそれと同じです。

自分で自分の会社や商品の強みはなかなかわからないものです。

それなのに本来とは別の勘違いした強みをアピールしても、お客様からは「別にそんなにすごいと思わないけどな」「確かにすごいかもしれないけど、別に欲しくはないよな」とズレてしまうのです。

 

だからこそ、その強み=なぜ買ったかをお客様に聞くのです。

私の経験上、これをたった5人に聞くだけでも、「こちらの想定通りだった。予想した以外の回答はなかった」ということはまずありません。

「えっ?そんな理由で買ったの?」「そんなポイントが大事なの?」という意外な発見が必ずあります。

中には、あまりにも予想外で「そんな理由で買っていたなんて、今までの私たちの努力は何だったんだ…」と肩を落としてがっかりされる方もいらっしゃるほどです。

 

しかし「そんな理由」であっても、それをお客様が強みと認識すれば、それは強みなのです。

あなたが今、売れていないとしても、それは努力をしていないからではありません。

「努力の方向性」が違うだけなのです。

野球選手が一生懸命サッカーのドリブルの練習をしても、野球はうまくなりません。

あなたの努力が正しい方向に向かうよう、ぜひ「5人聞き取り」で確かめてください。


■なぜ人数は「5人」なのか?

 

よく聞かれるのがこの質問です。

答えとしては「これまでの経験上、多すぎず、少なすぎず、ちょうどいいから」です。

 

実際に「5人に聞けば有効な仮説の85%は網羅できる」という調査結果もあります。(これを知ったのは私が「5人聞き取り」を確立した後でしたが。)

 

5人聞き取りを行う場合、必ずしも聞いた全員が同じような人物で同じような回答をするとは限りません。中にはあまり参考にならない「イレギュラー」の方もいます。

5人に聞くと、そのような「イレギュラー」の方はたいてい1人で済みます。そのようなときは、「この1人はイレギュラーとしてあまり重視せず、他の4人の似た意見をまとめよう」と決断することができます。実際、それで問題ありません。

 

「3人」でも悪くはないのですが、そうすると「イレギュラー」に思える人が1人いたときの判断に困ります。5人中1人だったらイレギュラーかな、と判断できますが、3人中1人だと、「こういう人は実はけっこういるのかも」と迷うかもしれません。これが5人になると、かなり回答の精度が高まります。

 

普通アンケートっていうと何百人、何千人と取るのに、たった5人でいいのか?

もっと多く、せめて10人・20人と調査すべきではないか?

 

このような声もよくいただきます。

 

まず、この「5人聞き取り」はお客様に直接質問します。しかも大抵の場合はお客様のご家庭に訪問します。そのため、5人であっても担当者の負担がかなり大きくなります。10人に質問しようと思えば、数ヶ月かかってしまうことでしょう。負担と得られる情報量のバランスを考えると、5人で十分であると言えます。

 

また、この「5人聞き取り」のポイントは、それによって「何が強みか」を割り出し、売るべきお客様を1人設定することです。この際、聞き取りをするお客様が多く、データがたくさん集まると、かえってあれもこれも、と集まったデータを盛り込みたくなります。その結果、盛り込むデータが多くなることにより、かえって特徴のない、抽象的な人物像が出来上がってしまうのです。

 

データが多いと情報が多くて良いように思えますが、反対に「どのデータが大事か」の取捨選択が難しくなるのです。だから、10人は多すぎ、むしろ5人が最適であると言えるのです。

 

また、アンケートには弱点もあります。それは「普通の人の普通の意見が注目されにくい」ということです。

 

私は先日、母校の大学から「卒業後のキャリアについて教えてほしい」というアンケートが送られてきました。私は外資系企業→日本企業→独立、という少数派のキャリアなので、これは答えねば!と思いました。これこそがまさに曲者です。

 

このようにアンケートは「物申したい人」ばかりが答えるので、必ずしもアンケートの結果が全体の総意になるとは限りません。2016年のイギリスのEU離脱や、アメリカ大統領選挙のヒラリーVSトランプのように、二択でさえアンケートは「間違える」のです。